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ameagari_fuhto 2024年03月31日(日) 17:32:26履歴
地面がランダムに波打つ世界。
カナの名札を首から吊り下げた彼女は黒のジャケットを羽織り歩いている。
その右手にはカラスの羽が握られていた。
幾何学的な通路を渡る植物が生えた身体のまま動く配達業者とすれ違い、世界が灰になる。と思うと再びすれ違う前の風景が目玉のない片目に、すれ違った後の通路の風景が目玉のある片目に映る。数メートル歩くとまた配達業者とすれ違い、同じことが繰り返される。脳内の神経がショートしそうになりながらも、フラフラと揺られながら歩いた。通路の端にはよく分からないゴミとヒトとカビが落ちており、それを蹴飛ばし目的の病室を見つけるために進んでゆく。
この世界は終末論的世界だ。髪の毛一つで選択肢と結末が変わる。空気も重く動かない。混乱してしまうほど、屋内には雨が降っている。
いつしか世界の構成がレンガのように崩れてゆく日も近い。
白色と灰色と灰色と灰色と灰色と灰色と薬色を混ぜたような色の空がアルミニウム製の窓から見える、613613613613613613613613613613の数字が書かれた無機質な病室。紀元前に作られたハードコアテクノの曲が天井のカエルから流れている。
私は深く、浅く、滑らかな傷をさすりながら扉を開けた。
視界の先には4人用のベッドと大量の医薬品が乱雑に置かれている以外は普通の病室が映る。何の変哲もない、異常な、部屋。
それを確認して、私は過去の味がする飴を舐めながらつぶやいた。
「久しぶり。カイト」
カイト——今はもう動けなくなってしまった身体を持つ、電子的な存在となった彼の名前。彼は生まれつき身体が動けないらしく、今もこうして私がNOiSE混じりの空気を持ってくる。いわゆりお見舞い、なんだろうね。
「最近どう? 体調は大丈夫そう?」
彼は足に取り付けられた特殊な水槽をつたってメッセージを送受信する。自分ではしゃべれないかららしいけどね。しかもその水槽はメダカの知能と腕力を使って生み出された新技術を使っている。少し値段は高かったけれど今となってはどうでもいい。今はその水槽にイタリック体で「機械が壊れかけているかもしれないしかもしれないしかもしれないしかも」との表示が出ている。
「そっか。システムにも問題はないのね」
システム、とはこの世界で言う世界AI対地面麻雀大会地区決勝戦のようなものだ。いたって単純で、複雑。理解することは足し算よりも簡単なことだろう。……壊れやすいのが長所なのだが。まぁこんなシステムに頼らなくともこの世界には魔法が存在する。かつて大昔しか存在していなかったであろう機械仕掛けの機械。mechana of mechanaを使えば。魔法が存在しないこの世界にとってこの機械は生活必需品ともなっているからね。
「それで……」
と、言う前に汚れた水槽からメッセージが表示された。
−−・−−/−・・・/−・・・/−・・・/−−−−/−−・−−/・−・・/−・・・/−・・・/−・・・/−・・・/・−・・/・・/−・・・/−−・/−・−/・−・−・/・−・−・/−−・−/・−・−・/−・−/−・・・/・−・・/・−/−・−/−・・・/−・・・/・−−・/・−・−−/・・・/・−・−・/・−・・/−・・・−/・−・−・/−−・・/・・/・−・・/−−・・−/・・−−・/−・−−−/
「あぁなんだ。ただのエラーか」
エラーメッセージNo.23654が昨日か一昨日に確認し、水槽のシステムをアップデートしたけれど、まだ調整が要るみたいだ。——まったく、殺すならシステムじゃなくてそこらへんの死体を殺してくれよ。
背中に背負っていた30センチメートルくらいのニジマスを手に取り、薄汚れたガラスの水槽に力を込めて叩きつける。ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、と鉄どうしがぶつがるような音が響く。叩きつけるたびに、ニジマスから金切声のような悲鳴が鳴る。ニジマスだけは正常に動作しているようだ。
数百回叩きつけた時、水槽のガラスが粉々に散りニジマスが消滅した。とりあえず、第一段階は終了。次は第二段階。とりあえず中に入ってある固形化した水を気体化しなければいけない。本当だったら1026.58Hzの音が出るアストロ社製のヒトが必要なのだけれど、今手持ちには何もないから液体アクリルで代用するしかない。病室の隅に保管してあった数年前のアニメーターが置いていったであろう液体アクリルの瓶を持ち上げ、慎重に水槽に投げつけると、無事水が気体化した。この機械には何百人のヒトの死体の血と涙が入っているのだろう。雑に扱っても簡単に治る。これで後は新しいガラスケースを被せれば完了だ。
「……カイト、聞こえる?」
「聞こええる。……あれ、俺れれ喋れたののか……?」
「あ、喋れるようになったのね。よかった」
どうやら機械は正常に動作しているようだ。
何十年ぶりかの声。いつ聞いても飽きない。彼の身体は震えている。
「それれで、カナはどうしてここここに来たんだだ?」
「あぁ。そっか。君は知らないのか。」
机の上に置いた紙を渡した。
「それ見たらわかるけど、どうやらこの世界は消しゴムらしいんだよね」
消しゴム——かつての昔に存在していた白色の悪魔。それほどKではないが、Kである。いつかの学者が発表した論文にも消しゴムのK度0.236と明記されている。それ故に劣等感をかき集めた固体となっているらしいのだが、今はこの世界そのものとなっている、らしい。それを詳しく調べるのが、今回の調査だ。
「なるほほどな。つまり認ん識を変えることがでできれば調べられそうだな」
「そうなのかな。……まあとりあえず行ってみようか」
「そうだな……って、身体にツタが絡まっている」
振り返りカイトを見てみると、手が機械化されたツタと絡まり身動きが取れなくなっていた。
このツタは……おそらく外来種だろう。普通のものなら自分自身の情報を拡散し相手に認識してもらうか認識させることができるのだが、これは非拡散性。つまり自分自身の情報を奪い取り拡散しないようにすることができる個体だ。生き抜くために身に着けた術だ。カイトの身体の一部が複雑に絡まっている。
そのまま身体が捩れ、腕から黒色に浸食されてゆく。まるで花のように震え、壊れ、身体が腕から順に黒色の灰に変化してゆき、風に乗って流れてゆく。
悲鳴と灰の音だけがこの世界に反響する。
その音は彼が消えてもなお、残響となりカナの耳に入る。
だんだんと静寂が世界を支配し、無音となった時。
「……死んじゃった、ね」
私は声を出した。静寂に差し出すように。
そして指を合わせ、ゆっくりと上に向けた。
世界が脆くひび割れ壊れてゆき、黒だけとなった。
「ま、いっか」
少し笑い、ポケットに手を入れ、赤色の飴を舐めた。
この世界は網だ。だが網目はバラバラである。よってgは0となる。様々な世界が複合し合い、その度に消滅し合う。黒色の悪魔と白色の雪だるま存在するように、深く、そして沈む。やがて雪は雨に変わり、焼き芋は蝶になってゆく。そうすることで、各自の携帯に一通のメールが送信される。受信したメールのタイトルは「mechana of mechana」。意味は「無償」。このことを記した紙を、カナは数十枚手に持っていた。
カナが全世界のコンビニの印刷機を起動したとき。世界が黒から緑色の文字列の羅列の縦列が現れ、瞬間的に様々な文字が置き換わる。足元の地面には二次元座標を表した平面が映し出され、格子状の血液が広がる。空間は無に包まれ、時折全体が波打っている。
その世界に存在するカナは手からホログラムのパネルを取り出し、壊した。
身体がピクセル状になり、オリジナルと完全に等しい存在を別世界に作り出してゆく。
世界は崩れ、血液は世界の欠片に滴り落ち数えきれないような重低音が響くはずだった。
そして何事もなかったかのように消える。消える。消える。
コピーが完了したとき。オリジナルは足から地面にめり込み、虚空へと変換されていった。
――セレナーデが聞こえる。ただ起き上がるとそこには、花火があった。システムの不具合か?
時計の針が曲がり、ペットボトルで地面が生まれ、セミコロンが降り、バラは逆さに咲き乱れ、林檎は裏と表を反転させられる。空は見えない。言語化できないようなものが広がって、落ちて、痛く、染まり、壊れ、広がる。大地はゆっくりと動いてゆき、やがて垂直になる、かと思うと捩れ、反転する。何回も、何回も繰り返され、より劣悪な世界が作られていった。そんな大地を削り、私は色とりどりの錠剤の海に身を投げつける。
反対側から持ち上げられ外界に繋がる穴に落ちる。
歯車の軋む音、時針の動く音、乱雑な電子音、脳が破壊されるような重低音、金属がこすれ合う音、火花が散る音。数えきれないほどの音が部屋と脳内に響き渡る。あたりはスチームパンクのような機械が無造作に並べられ、時々白い蒸気が吹き出される。視界には金属の粉のようで現実のようなゴミが飛び、10メートル先はほぼ見えない。が、奥に人がつぶされてゆく感覚がある。
ガシャンと金属の動く音が聞こえ、つぶされる。
骨の砕ける音が鳴り、無音となる。
夢から起き、重力と共に空間そのものが動く。
水が滴る音で目が覚め、軽い身体を起こす。
足元には緑の植物が生い茂り、所々にノイズ混じりの花が咲いている。地面には薄く広がった鮮やかな青色の水の層が足枷となり思うように動けない。空には赤い太陽と紫色の月。何千日経っても動くことはない。
私は広げた手を見た。血のにじむ、薄汚れた、小柄な手。私に似つかない偽りの身体。不器用じゃない指。切り落とされてない右腕。しっかり両腕、両手ある。
ゆっくりと握った後に、世界は壊れた。
赤いドロドロとした水に堕ち、無音が広がる。視界は無論、真っ黒。
割れた鏡に身を投げ、反転した世界に堕ちてゆく。
空は見えず白と黒のクロス模様が繰り返される部屋が続く。
空気は氷のように冷たく、硬く、流れていない。視界の端も黒ずんでだんだんと瞳が落ちていく。
音は聞こえない。ありえないほどに、静かで、風を切る音さえも聞こえない。
だんだんと手足の感覚も無くなってくる。
何もないただの沈黙に包まれている。
空気が変わった。
いつしか黒色の空間に堕ち、刺さった。腐った血の流れる音が聞こえる。
充血した目に覆われた空間で拘束される。血の色に染まった細長い肉が手足に絡みつき身動きがとれない。
しだいに肉の掴む力が強くなり、腕から血がにじむ。
身体が引き千切れそうになる前に、私は視界が閉ざされることとなった。
ピアノの音が聞こえ目を覚ます。
四方から聴いたことのないメロディが聞こえる。
電子音とピアノの不協和音が不定のリズムで心をゆさぶる。
視界にはガラス以外何も映っていない。透明でホコリの一つもかぶっていないガラス。まるで水晶で作られたかのような透明度を誇っている。無論、奥には何も見えない。
ピキッとヒビの入る音が聞こえる。またたく間に、そのヒビはガラス全体を覆い、割れた。
とても簡単に、複雑に、綺麗に、砕けていく。
はぁ。疲れたよ。
気が付けば私は病室のベッドで横たわっていた。
濃い赤色の斑点がある灰色のシーツと錆びた金属製の骨組み。コンクリートでできた壁は爆撃があったかのように所々が崩れていた。起き上がって周りを見てみても、半透明の赤色の氷しかなかった。
まさかとは思い私の身体を見たが、傷も、薄汚れた手も、青色の宝石の首飾りも、黒のジャケットもなかった。
まるで別人に変わったかのように、私の身体は記憶していたものとは違う。こんなにきれいな肌で、綺麗な髪で、薄汚れた制服なんかじゃなかった。
何個か共通点があるとするならば、右頬のアザあることと右腕がないことだけだろう。
私は起き上がり周りを散策しようとした……が、どうやら私の右腕には点滴が刺されているみたいだ。細長い管をつたってゆくと赤色の液体が入った袋が吊り下げられているところにいきついた。私が気付かない間に点滴が必要な病気になっていたみたいだ。
仕方なく、手元にあったバタフライナイフで細長い管を切った。私の思惑どおりに液体の入った袋ごとこの世界からフェードアウトした。キックとスネアと似た単純な音が鳴る。これで身軽になった。いくらでも散策に行くことが出来る。
私は完全2f音と完全58音の周波数で作られたドキュメント形式の曲が流れる方向へと足を進めた。
グシャ、グシャ、グシャ、グシャと気味の悪い足音と、コツ、コツコツ、コツと硬い足音の二つが聞こえる。
私が立ち止まると足音は止み、笑い声が聞こえる。また歩くと笑い声は止み、二つの足音が聞こえる。
気味悪いながらも病室を出ると、さっき居た病室とは違い、扉から出た外は異常だった。
空気は黄色の胞子と埃が混じったような煙。紫色の植物が生えた天井に錆びた金属製の鉄骨。コンクリートでできた壁は爆撃があったかのように所々が崩れていた。
気味悪いながらも足を進め、x軸とf軸にズレた通路の先へと足を進める。死体が生きていたこともあったが、とりあえず前へ進むと、1.26日ごとに613613613613613613613613613613の数字が書かれた病室が続いていることが分かった。この世界は壊れているみたいではないかもしれないようなのかもしれないのか?
(……なんでだろう)とつぶやこうとしたが、声は身体の内側に向けて出された。
ナイフの薬が切れていなかったからだろうと勝手に仮説を立て、結論を捨てる。
話せなかったところでそこまで不便になることはいくらでもあるだろう。手がないところで大丈夫だ。
私は壁に掛けられた時計を一つ壊した。ガラスの破片が飛び散る音と共に、赤いドロドロとした液体と黒い粒が流れ、時計の針が132分の5に割れる。
あぁ。魂もこんな感じに壊れてゆくのだろう。結局は壊れるし壊れるし壊れるし壊れるし壊れるし壊れるし壊れるし壊れる。普遍的なものは絶対に存在しないのだ。そう。絶対に。
そして私は壊した時計から出てきた心臓の形を模した飴を口に含み舐めた。アポカリプティックサウンドと黒色のインクを混ぜたような味がしたその瞬間。通路が消え、水の槍の雨が降る。
地面はなんとか溶けていなかったが、空は固形化していた。今ある地面の広さは本2冊分くらいだろうか。椅子が5個ほどしか載せられない。
そんな世界に北西南東西から風が吹く。まるでそよ風のような機械の風。すべてを吹き飛ばして消えた。
私は成すすべなく、風にあおられ飛ばされた。
気が付けば私は病室のベッドで横たわっていた。
薄い青色の斑点がある灰色のシーツと錆びた金属製の骨組み。コンクリートでできた壁は爆撃があったかのように所々が崩れていた。起き上がって周りを見てみても、半透明の緑色の氷しかなかった。
まさかとは思い私の身体を見たが、傷も、薄汚れた手も、紫色の宝石の首飾りも、黒のジャケットもなかった。
まるで別人に変わったかのように、私の身体は記憶していたものとは違う。こんなにきれいな肌で、綺麗な髪で、薄汚れた制服なんかじゃなかった。
何個か共通点があるとするならば、左頬のアザあることと左腕がないことだけだろう。
私は起き上がり周りを散策しようとした……が、どうやら私の足には点滴が刺されているみたいだ。細長い管をつたってゆくと赤色の粉が入った袋が吊り下げられているところにいきついた。私が気付かない間に点滴が必要な病気になっていたみたいだ。
仕方なく、手元にあったバタフライナイフで細長い管を切った。私の思惑どおりに粉の入った袋ごとこの世界からフェードアウトした。キックとスネアと似た単純な音が鳴る。これで身軽になった。いくらでも散策に行くことが出来る。
私は完全c5音と完全fa音の周波数で作られたドキュメント形式の曲が流れる方向へと足を進めた。
グシャ、グシャ、グシャ、グシャと硬い足音と、コツ、コツコツ、コツと気味の悪い足音の二つが聞こえる。
私が立ち止まると足音は止み、悲鳴が聞こえる。また歩くと悲鳴は止み、二つの足音が聞こえる。
普通かなと思いながらも病室を出ると、さっき居た病室とは違い、扉から出た外は異常だった。
空気は黄色の胞子と埃が混じったような煙。紫色の植物が生えた天井に錆びた金属製の鉄骨。コンクリートでできた壁は爆撃があったかのように所々が崩れていた。
気味悪いながらも足を進め、y軸とf軸にズレた通路の先へと足を進める。死体が生きていたこともあったが、とりあえず前へ進むと、45.23日ごとに0658695478569848569の数字が書かれた病室が続いていることが分かった。この世界は壊れているみたいではないかもしれないようなのかもしれないのか?
(……なんでだろう)
とつぶやこうとしたが、声は身体の外側に向けて出された。
ナイフの薬が切れていなかったからだろうと勝手に仮説を立て、結論を捨てる。
話せなかったところでそこまで不便になることはいくらでもあるだろう。心がないところで大丈夫だ。
私は時計に色を付けた。そばにあった死体から赤い絵の具を借りて、丁寧に隅から隅へと塗っていった。すると壁に幾何学的なひびが入り、隙間から肉片が出てくる。
すると、手前の扉が開いた。奥には様々なパイプで形成された部屋が見える。
ぼんやりと、腐った腕のようなにおいが流れて来る。
私は重くなった足をゆっくりと進めた。
身体が亀裂し、目の前に閃光が走った。
悲鳴は……上げていたかな。声帯があったのかもわからないけれど。
何回目かも分からない目を開ける行動を行なうと一つの大きなパイプの上で立ち尽くしていることに気付いた。地面からの高さはビル12階分ほど。それなりに高い。
振り向くと後ろには扉の枠だけが残っていた。奥には緑の大地に青色の太陽が昇っていた。
私は動かなくなった身体を無理やり倒し、落ちて外に出る。どうやら筋肉は弱ってしまっているようだ。グシャっという音が聞こえ、仰向けになったまま転がり風景を見た。蒼穹と緑の丘が広がり、傍には石板が立っていた。A4ほどのサイズで黒色の加工された石。表面はきれいに磨かれており、傷一つも見えない。
2a67年f6e月25bf日。それ以外の文字は……未知の言語か既知の言語か分からないが風化で読めない。
私は重い身体をなんとか持ち上げた。幽霊と光の要素を半分ずつ組み合わせたような風が吹いている。まるでどこかの高原にいるかのようだ。
一歩足を踏み出そうとして、私はとあるものを握っていることに気付いた。
ビー玉。赤色と青色を中途半端に混ぜたような色をしている。よく分からないけれど、気味悪い。吐きそうなほど
空に向けて持ち上げた。
空が黒く、大地が血の色に染まっている景色が目に映る。
雲が動き、時が止まった。
目が割れた。
液が滴る音と激痛が脳を支配してゆく。
片目を強く押さえ膝から崩れ落ちる。
痛いを繰り返した。
生きながら死んでゆく脳内の自分。
呼吸が荒くなる。
苦しい。
揺れ動き、鼓動が聞こえる。
片目の視野が暗くなる。まるで殺された後の視界のように。
こんな時に限って脳内に流れるのはモールス信号。
永遠に脳内で−−・−−/−・・・/−・・・/−・・・/−−−−/−−・−−/・−・・/−・・・/−・・・/−・・・/−・・・/・−・・/・・/−・・・/−−・/−・−/・−・−・/・−・−・/−−・−/・−・−・/−・−/−・・・/・−・・/・−/−・−/−・・・/−・・・/・−−・/・−・−−/・・・/・−・−・/・−・・/−・・・−/・−・−・/−−・・/・・/・−・・/−−・・−/・・−−・/−・−−−/何回も何回も何回も何回も何回も繰り返されてゆく。
何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も。
彼女の身体は震えていた。
恐怖の対象があるわけでもない。
悪夢の世界から起きたわけでもない。
極寒の地に身を置いているわけでもない。
痛みが身体を支配していた。身体に響き渡る激痛。
その痛みが極限まで広がった時、意識は遠のいた。
夢に居た感覚。夢から覚める感覚。
気味の悪い感覚と共に、感情は揺さぶられた。
カナは歪曲した現実に立っていた。歪曲、といっても3以上1未満のkxl値の範囲以内で歪曲した時空をさらにf軸に曲げた空間ということだ。
目の前には機械化されたツタの生い茂る黒色の廃病院。窓ガラスには銃痕と血痕を隠すようにしてガムテープが張られていた。
おそらくこの世界は現実なのだろう。現実が感覚だから。例えるならば地下の奥深くで溜まる泥まみれの水のように鎖で腐り私というだけの存在が死ぬということだろう。結局はどう足搔いてもなんだ。今いる場所も、ただ囚われただけの檻の中。ニジマスさえ生きていけないほどG#マイナースケールの使用率が高い。涙さえ流れない。そう言って君はいつも文字ばかり書いている。ϠϞϚと書いて何の意味があるのか。669。そうさ君だよ。空想まで意識を侵入させないでってい言った覚えはない。ノイズが邪魔をしてくる。ナイフとフォークは私も持っているよって。血の流れが外にまでいくなんて聞いているよ。いつまで身体に糸を括り付けるんだ。
彼女は人形のように糸を括り付ける。天井には霧の顔の人型。肌は黒ずんでいる。
そこで私は鮭で豆板醬を作った。ニジマスで叩きつけた。破片が刺さる。金切声のような悲痛で重い悲鳴が響く。光が消える。消える。消える。Ofが無くなる。
と、全ての文字を書き、腐りきったであろうミカンを頬張る。おいしさの末に内臓を吐き出す。血は鮮やかな赤色だった。身体を捨て、身軽になる。
私は閉じられたガラスのドアを通る。なぜか入口の扉はヒビの一つも入っておらず、新品同様の表面だった。待合室にも受付にも人は居ない。水溜と血痕が空間ににじんでいる。
天井にはいくつかの蛍光灯が輝いていた。ブレーカーは落とされている。
受付の横を進み、空間の重なった通路を渡ってゆく。瓦礫は散乱し、死体は動き、ケーブルは切断されている。
壁、窓、窓、掲示板、窓、窓、壁、薬、窓、神社、と続いていく通路を5日ほど歩くと、非常出口の明かりだけが輝く階段が見えた。その方向へ足を進ませ0、1、2,3、4、5、6、7、8、9、a、b、cと段をのぼってゆく。階数の文字は見えない。窓も明かりも全くなく、壁には階が上がるにつれて血痕と植物が増えていく感覚がする可能性が高くそうではないかもしれないかもしれない。結局は第三者視点で見ないと分からないのだ。
私は意識の戻った時点での階で通路に出た。数十日歩くと植物が生えた身体のまま動く配達業者と横切った。
脳内の記憶という名の本に書いてあるような気がしながら足を進める。離れた距離はだんだんと長くなる。鼓動は聞こえない。星は見えない。月は頭にある。
視界が乖離した。
拝啓
私はもう居ない。この世界にも、どの世界にもいない。
私はもうどこにもいない。存在さえ情報としてゴミ箱に入れられる。
私は夢に居る。データが破損する限り永久に囚われる。
私は現実に居る。光の奥底で眠っている。
私はどこに居る?どこに居るんだ?居るのか?私の何か。
私はここに居る。影の文字に煙となって食べる。
私はここに居ない。場所はもうない。月は昇る。
私は愚者だ。輝きを見た。もう戻れやしない。過去は記憶の中にしかない。
私は殺された。吐かない。吐かない。内臓は吐いた。
私は生きていない。幽界の狭間でキャンプをする。
私は悪夢を見る。黒く赤い沼で溺れ、紫色の目に見られる。
私は祈らない。十字架を投げ捨てた。
私は祈れない。祈る意思さえ残っていない。
私は潰された。目をつぶされた。骨は折れている。
私は透明だ。白色の線でさえかたどられない。
私は食べた。自分の心を、時間をかけて。
私は時間を進める。黒い背景に針を折る。
私は手紙を書く。文字列の束を無意味に連ねる。
私は音を聞く。音の響きを殺して生きる。
私は輝きがない。星は数えきれない。ニジマスでさえも。
私は罪人だ。もういっそのこと殺してくれ。痛くないように、痛く、痛く、痛く。
私は生きる。時間軸も空間も何番目の命かもわからず。
私は私だ。愚か者で殺されたかもしれないしかもしれないし可能性が高いかもしれない。
私は今ある存在を知らない。どこで作られどこで食べられたのか分からない。
私はどこへ向かっているのか?決められた道をただただひたすらに進んでゆく。
私は生まれてよかったのか。
私はニジマスを見てよかったのか。
私は人間なのか?
私は何を見ているのか?
私は……?
敬愚
カナの名札を首から吊り下げた彼女は黒のジャケットを羽織り歩いている。
その右手にはカラスの羽が握られていた。
幾何学的な通路を渡る植物が生えた身体のまま動く配達業者とすれ違い、世界が灰になる。と思うと再びすれ違う前の風景が目玉のない片目に、すれ違った後の通路の風景が目玉のある片目に映る。数メートル歩くとまた配達業者とすれ違い、同じことが繰り返される。脳内の神経がショートしそうになりながらも、フラフラと揺られながら歩いた。通路の端にはよく分からないゴミとヒトとカビが落ちており、それを蹴飛ばし目的の病室を見つけるために進んでゆく。
この世界は終末論的世界だ。髪の毛一つで選択肢と結末が変わる。空気も重く動かない。混乱してしまうほど、屋内には雨が降っている。
いつしか世界の構成がレンガのように崩れてゆく日も近い。
白色と灰色と灰色と灰色と灰色と灰色と薬色を混ぜたような色の空がアルミニウム製の窓から見える、613613613613613613613613613613の数字が書かれた無機質な病室。紀元前に作られたハードコアテクノの曲が天井のカエルから流れている。
私は深く、浅く、滑らかな傷をさすりながら扉を開けた。
視界の先には4人用のベッドと大量の医薬品が乱雑に置かれている以外は普通の病室が映る。何の変哲もない、異常な、部屋。
それを確認して、私は過去の味がする飴を舐めながらつぶやいた。
「久しぶり。カイト」
カイト——今はもう動けなくなってしまった身体を持つ、電子的な存在となった彼の名前。彼は生まれつき身体が動けないらしく、今もこうして私がNOiSE混じりの空気を持ってくる。いわゆりお見舞い、なんだろうね。
「最近どう? 体調は大丈夫そう?」
彼は足に取り付けられた特殊な水槽をつたってメッセージを送受信する。自分ではしゃべれないかららしいけどね。しかもその水槽はメダカの知能と腕力を使って生み出された新技術を使っている。少し値段は高かったけれど今となってはどうでもいい。今はその水槽にイタリック体で「機械が壊れかけているかもしれないしかもしれないしかもしれないしかも」との表示が出ている。
「そっか。システムにも問題はないのね」
システム、とはこの世界で言う世界AI対地面麻雀大会地区決勝戦のようなものだ。いたって単純で、複雑。理解することは足し算よりも簡単なことだろう。……壊れやすいのが長所なのだが。まぁこんなシステムに頼らなくともこの世界には魔法が存在する。かつて大昔しか存在していなかったであろう機械仕掛けの機械。mechana of mechanaを使えば。魔法が存在しないこの世界にとってこの機械は生活必需品ともなっているからね。
「それで……」
と、言う前に汚れた水槽からメッセージが表示された。
−−・−−/−・・・/−・・・/−・・・/−−−−/−−・−−/・−・・/−・・・/−・・・/−・・・/−・・・/・−・・/・・/−・・・/−−・/−・−/・−・−・/・−・−・/−−・−/・−・−・/−・−/−・・・/・−・・/・−/−・−/−・・・/−・・・/・−−・/・−・−−/・・・/・−・−・/・−・・/−・・・−/・−・−・/−−・・/・・/・−・・/−−・・−/・・−−・/−・−−−/
「あぁなんだ。ただのエラーか」
エラーメッセージNo.23654が昨日か一昨日に確認し、水槽のシステムをアップデートしたけれど、まだ調整が要るみたいだ。——まったく、殺すならシステムじゃなくてそこらへんの死体を殺してくれよ。
背中に背負っていた30センチメートルくらいのニジマスを手に取り、薄汚れたガラスの水槽に力を込めて叩きつける。ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、と鉄どうしがぶつがるような音が響く。叩きつけるたびに、ニジマスから金切声のような悲鳴が鳴る。ニジマスだけは正常に動作しているようだ。
数百回叩きつけた時、水槽のガラスが粉々に散りニジマスが消滅した。とりあえず、第一段階は終了。次は第二段階。とりあえず中に入ってある固形化した水を気体化しなければいけない。本当だったら1026.58Hzの音が出るアストロ社製のヒトが必要なのだけれど、今手持ちには何もないから液体アクリルで代用するしかない。病室の隅に保管してあった数年前のアニメーターが置いていったであろう液体アクリルの瓶を持ち上げ、慎重に水槽に投げつけると、無事水が気体化した。この機械には何百人のヒトの死体の血と涙が入っているのだろう。雑に扱っても簡単に治る。これで後は新しいガラスケースを被せれば完了だ。
「……カイト、聞こえる?」
「聞こええる。……あれ、俺れれ喋れたののか……?」
「あ、喋れるようになったのね。よかった」
どうやら機械は正常に動作しているようだ。
何十年ぶりかの声。いつ聞いても飽きない。彼の身体は震えている。
「それれで、カナはどうしてここここに来たんだだ?」
「あぁ。そっか。君は知らないのか。」
机の上に置いた紙を渡した。
「それ見たらわかるけど、どうやらこの世界は消しゴムらしいんだよね」
消しゴム——かつての昔に存在していた白色の悪魔。それほどKではないが、Kである。いつかの学者が発表した論文にも消しゴムのK度0.236と明記されている。それ故に劣等感をかき集めた固体となっているらしいのだが、今はこの世界そのものとなっている、らしい。それを詳しく調べるのが、今回の調査だ。
「なるほほどな。つまり認ん識を変えることがでできれば調べられそうだな」
「そうなのかな。……まあとりあえず行ってみようか」
「そうだな……って、身体にツタが絡まっている」
振り返りカイトを見てみると、手が機械化されたツタと絡まり身動きが取れなくなっていた。
このツタは……おそらく外来種だろう。普通のものなら自分自身の情報を拡散し相手に認識してもらうか認識させることができるのだが、これは非拡散性。つまり自分自身の情報を奪い取り拡散しないようにすることができる個体だ。生き抜くために身に着けた術だ。カイトの身体の一部が複雑に絡まっている。
そのまま身体が捩れ、腕から黒色に浸食されてゆく。まるで花のように震え、壊れ、身体が腕から順に黒色の灰に変化してゆき、風に乗って流れてゆく。
悲鳴と灰の音だけがこの世界に反響する。
その音は彼が消えてもなお、残響となりカナの耳に入る。
だんだんと静寂が世界を支配し、無音となった時。
「……死んじゃった、ね」
私は声を出した。静寂に差し出すように。
そして指を合わせ、ゆっくりと上に向けた。
世界が脆くひび割れ壊れてゆき、黒だけとなった。
「ま、いっか」
少し笑い、ポケットに手を入れ、赤色の飴を舐めた。
この世界は網だ。だが網目はバラバラである。よってgは0となる。様々な世界が複合し合い、その度に消滅し合う。黒色の悪魔と白色の雪だるま存在するように、深く、そして沈む。やがて雪は雨に変わり、焼き芋は蝶になってゆく。そうすることで、各自の携帯に一通のメールが送信される。受信したメールのタイトルは「mechana of mechana」。意味は「無償」。このことを記した紙を、カナは数十枚手に持っていた。
カナが全世界のコンビニの印刷機を起動したとき。世界が黒から緑色の文字列の羅列の縦列が現れ、瞬間的に様々な文字が置き換わる。足元の地面には二次元座標を表した平面が映し出され、格子状の血液が広がる。空間は無に包まれ、時折全体が波打っている。
その世界に存在するカナは手からホログラムのパネルを取り出し、壊した。
身体がピクセル状になり、オリジナルと完全に等しい存在を別世界に作り出してゆく。
世界は崩れ、血液は世界の欠片に滴り落ち数えきれないような重低音が響くはずだった。
そして何事もなかったかのように消える。消える。消える。
コピーが完了したとき。オリジナルは足から地面にめり込み、虚空へと変換されていった。
時計の針が曲がり、ペットボトルで地面が生まれ、セミコロンが降り、バラは逆さに咲き乱れ、林檎は裏と表を反転させられる。空は見えない。言語化できないようなものが広がって、落ちて、痛く、染まり、壊れ、広がる。大地はゆっくりと動いてゆき、やがて垂直になる、かと思うと捩れ、反転する。何回も、何回も繰り返され、より劣悪な世界が作られていった。そんな大地を削り、私は色とりどりの錠剤の海に身を投げつける。
反対側から持ち上げられ外界に繋がる穴に落ちる。
歯車の軋む音、時針の動く音、乱雑な電子音、脳が破壊されるような重低音、金属がこすれ合う音、火花が散る音。数えきれないほどの音が部屋と脳内に響き渡る。あたりはスチームパンクのような機械が無造作に並べられ、時々白い蒸気が吹き出される。視界には金属の粉のようで現実のようなゴミが飛び、10メートル先はほぼ見えない。が、奥に人がつぶされてゆく感覚がある。
ガシャンと金属の動く音が聞こえ、つぶされる。
骨の砕ける音が鳴り、無音となる。
夢から起き、重力と共に空間そのものが動く。
水が滴る音で目が覚め、軽い身体を起こす。
足元には緑の植物が生い茂り、所々にノイズ混じりの花が咲いている。地面には薄く広がった鮮やかな青色の水の層が足枷となり思うように動けない。空には赤い太陽と紫色の月。何千日経っても動くことはない。
私は広げた手を見た。血のにじむ、薄汚れた、小柄な手。私に似つかない偽りの身体。不器用じゃない指。切り落とされてない右腕。しっかり両腕、両手ある。
ゆっくりと握った後に、世界は壊れた。
赤いドロドロとした水に堕ち、無音が広がる。視界は無論、真っ黒。
割れた鏡に身を投げ、反転した世界に堕ちてゆく。
空は見えず白と黒のクロス模様が繰り返される部屋が続く。
空気は氷のように冷たく、硬く、流れていない。視界の端も黒ずんでだんだんと瞳が落ちていく。
音は聞こえない。ありえないほどに、静かで、風を切る音さえも聞こえない。
だんだんと手足の感覚も無くなってくる。
何もないただの沈黙に包まれている。
空気が変わった。
いつしか黒色の空間に堕ち、刺さった。腐った血の流れる音が聞こえる。
充血した目に覆われた空間で拘束される。血の色に染まった細長い肉が手足に絡みつき身動きがとれない。
しだいに肉の掴む力が強くなり、腕から血がにじむ。
身体が引き千切れそうになる前に、私は視界が閉ざされることとなった。
ピアノの音が聞こえ目を覚ます。
四方から聴いたことのないメロディが聞こえる。
電子音とピアノの不協和音が不定のリズムで心をゆさぶる。
視界にはガラス以外何も映っていない。透明でホコリの一つもかぶっていないガラス。まるで水晶で作られたかのような透明度を誇っている。無論、奥には何も見えない。
ピキッとヒビの入る音が聞こえる。またたく間に、そのヒビはガラス全体を覆い、割れた。
とても簡単に、複雑に、綺麗に、砕けていく。
はぁ。疲れたよ。
気が付けば私は病室のベッドで横たわっていた。
濃い赤色の斑点がある灰色のシーツと錆びた金属製の骨組み。コンクリートでできた壁は爆撃があったかのように所々が崩れていた。起き上がって周りを見てみても、半透明の赤色の氷しかなかった。
まさかとは思い私の身体を見たが、傷も、薄汚れた手も、青色の宝石の首飾りも、黒のジャケットもなかった。
まるで別人に変わったかのように、私の身体は記憶していたものとは違う。こんなにきれいな肌で、綺麗な髪で、薄汚れた制服なんかじゃなかった。
何個か共通点があるとするならば、右頬のアザあることと右腕がないことだけだろう。
私は起き上がり周りを散策しようとした……が、どうやら私の右腕には点滴が刺されているみたいだ。細長い管をつたってゆくと赤色の液体が入った袋が吊り下げられているところにいきついた。私が気付かない間に点滴が必要な病気になっていたみたいだ。
仕方なく、手元にあったバタフライナイフで細長い管を切った。私の思惑どおりに液体の入った袋ごとこの世界からフェードアウトした。キックとスネアと似た単純な音が鳴る。これで身軽になった。いくらでも散策に行くことが出来る。
私は完全2f音と完全58音の周波数で作られたドキュメント形式の曲が流れる方向へと足を進めた。
グシャ、グシャ、グシャ、グシャと気味の悪い足音と、コツ、コツコツ、コツと硬い足音の二つが聞こえる。
私が立ち止まると足音は止み、笑い声が聞こえる。また歩くと笑い声は止み、二つの足音が聞こえる。
気味悪いながらも病室を出ると、さっき居た病室とは違い、扉から出た外は異常だった。
空気は黄色の胞子と埃が混じったような煙。紫色の植物が生えた天井に錆びた金属製の鉄骨。コンクリートでできた壁は爆撃があったかのように所々が崩れていた。
気味悪いながらも足を進め、x軸とf軸にズレた通路の先へと足を進める。死体が生きていたこともあったが、とりあえず前へ進むと、1.26日ごとに613613613613613613613613613613の数字が書かれた病室が続いていることが分かった。この世界は壊れているみたいではないかもしれないようなのかもしれないのか?
(……なんでだろう)とつぶやこうとしたが、声は身体の内側に向けて出された。
ナイフの薬が切れていなかったからだろうと勝手に仮説を立て、結論を捨てる。
話せなかったところでそこまで不便になることはいくらでもあるだろう。手がないところで大丈夫だ。
私は壁に掛けられた時計を一つ壊した。ガラスの破片が飛び散る音と共に、赤いドロドロとした液体と黒い粒が流れ、時計の針が132分の5に割れる。
あぁ。魂もこんな感じに壊れてゆくのだろう。結局は壊れるし壊れるし壊れるし壊れるし壊れるし壊れるし壊れるし壊れる。普遍的なものは絶対に存在しないのだ。そう。絶対に。
そして私は壊した時計から出てきた心臓の形を模した飴を口に含み舐めた。アポカリプティックサウンドと黒色のインクを混ぜたような味がしたその瞬間。通路が消え、水の槍の雨が降る。
地面はなんとか溶けていなかったが、空は固形化していた。今ある地面の広さは本2冊分くらいだろうか。椅子が5個ほどしか載せられない。
そんな世界に北西南東西から風が吹く。まるでそよ風のような機械の風。すべてを吹き飛ばして消えた。
私は成すすべなく、風にあおられ飛ばされた。
気が付けば私は病室のベッドで横たわっていた。
薄い青色の斑点がある灰色のシーツと錆びた金属製の骨組み。コンクリートでできた壁は爆撃があったかのように所々が崩れていた。起き上がって周りを見てみても、半透明の緑色の氷しかなかった。
まさかとは思い私の身体を見たが、傷も、薄汚れた手も、紫色の宝石の首飾りも、黒のジャケットもなかった。
まるで別人に変わったかのように、私の身体は記憶していたものとは違う。こんなにきれいな肌で、綺麗な髪で、薄汚れた制服なんかじゃなかった。
何個か共通点があるとするならば、左頬のアザあることと左腕がないことだけだろう。
私は起き上がり周りを散策しようとした……が、どうやら私の足には点滴が刺されているみたいだ。細長い管をつたってゆくと赤色の粉が入った袋が吊り下げられているところにいきついた。私が気付かない間に点滴が必要な病気になっていたみたいだ。
仕方なく、手元にあったバタフライナイフで細長い管を切った。私の思惑どおりに粉の入った袋ごとこの世界からフェードアウトした。キックとスネアと似た単純な音が鳴る。これで身軽になった。いくらでも散策に行くことが出来る。
私は完全c5音と完全fa音の周波数で作られたドキュメント形式の曲が流れる方向へと足を進めた。
グシャ、グシャ、グシャ、グシャと硬い足音と、コツ、コツコツ、コツと気味の悪い足音の二つが聞こえる。
私が立ち止まると足音は止み、悲鳴が聞こえる。また歩くと悲鳴は止み、二つの足音が聞こえる。
普通かなと思いながらも病室を出ると、さっき居た病室とは違い、扉から出た外は異常だった。
空気は黄色の胞子と埃が混じったような煙。紫色の植物が生えた天井に錆びた金属製の鉄骨。コンクリートでできた壁は爆撃があったかのように所々が崩れていた。
気味悪いながらも足を進め、y軸とf軸にズレた通路の先へと足を進める。死体が生きていたこともあったが、とりあえず前へ進むと、45.23日ごとに0658695478569848569の数字が書かれた病室が続いていることが分かった。この世界は壊れているみたいではないかもしれないようなのかもしれないのか?
(……なんでだろう)
とつぶやこうとしたが、声は身体の外側に向けて出された。
ナイフの薬が切れていなかったからだろうと勝手に仮説を立て、結論を捨てる。
話せなかったところでそこまで不便になることはいくらでもあるだろう。心がないところで大丈夫だ。
私は時計に色を付けた。そばにあった死体から赤い絵の具を借りて、丁寧に隅から隅へと塗っていった。すると壁に幾何学的なひびが入り、隙間から肉片が出てくる。
すると、手前の扉が開いた。奥には様々なパイプで形成された部屋が見える。
ぼんやりと、腐った腕のようなにおいが流れて来る。
私は重くなった足をゆっくりと進めた。
身体が亀裂し、目の前に閃光が走った。
悲鳴は……上げていたかな。声帯があったのかもわからないけれど。
何回目かも分からない目を開ける行動を行なうと一つの大きなパイプの上で立ち尽くしていることに気付いた。地面からの高さはビル12階分ほど。それなりに高い。
振り向くと後ろには扉の枠だけが残っていた。奥には緑の大地に青色の太陽が昇っていた。
私は動かなくなった身体を無理やり倒し、落ちて外に出る。どうやら筋肉は弱ってしまっているようだ。グシャっという音が聞こえ、仰向けになったまま転がり風景を見た。蒼穹と緑の丘が広がり、傍には石板が立っていた。A4ほどのサイズで黒色の加工された石。表面はきれいに磨かれており、傷一つも見えない。
2a67年f6e月25bf日。それ以外の文字は……未知の言語か既知の言語か分からないが風化で読めない。
私は重い身体をなんとか持ち上げた。幽霊と光の要素を半分ずつ組み合わせたような風が吹いている。まるでどこかの高原にいるかのようだ。
一歩足を踏み出そうとして、私はとあるものを握っていることに気付いた。
ビー玉。赤色と青色を中途半端に混ぜたような色をしている。よく分からないけれど、気味悪い。吐きそうなほど
空に向けて持ち上げた。
空が黒く、大地が血の色に染まっている景色が目に映る。
雲が動き、時が止まった。
目が割れた。
液が滴る音と激痛が脳を支配してゆく。
片目を強く押さえ膝から崩れ落ちる。
痛いを繰り返した。
生きながら死んでゆく脳内の自分。
呼吸が荒くなる。
苦しい。
揺れ動き、鼓動が聞こえる。
片目の視野が暗くなる。まるで殺された後の視界のように。
こんな時に限って脳内に流れるのはモールス信号。
永遠に脳内で−−・−−/−・・・/−・・・/−・・・/−−−−/−−・−−/・−・・/−・・・/−・・・/−・・・/−・・・/・−・・/・・/−・・・/−−・/−・−/・−・−・/・−・−・/−−・−/・−・−・/−・−/−・・・/・−・・/・−/−・−/−・・・/−・・・/・−−・/・−・−−/・・・/・−・−・/・−・・/−・・・−/・−・−・/−−・・/・・/・−・・/−−・・−/・・−−・/−・−−−/何回も何回も何回も何回も何回も繰り返されてゆく。
何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も。
彼女の身体は震えていた。
恐怖の対象があるわけでもない。
悪夢の世界から起きたわけでもない。
極寒の地に身を置いているわけでもない。
痛みが身体を支配していた。身体に響き渡る激痛。
その痛みが極限まで広がった時、意識は遠のいた。
夢に居た感覚。夢から覚める感覚。
気味の悪い感覚と共に、感情は揺さぶられた。
カナは歪曲した現実に立っていた。歪曲、といっても3以上1未満のkxl値の範囲以内で歪曲した時空をさらにf軸に曲げた空間ということだ。
目の前には機械化されたツタの生い茂る黒色の廃病院。窓ガラスには銃痕と血痕を隠すようにしてガムテープが張られていた。
おそらくこの世界は現実なのだろう。現実が感覚だから。例えるならば地下の奥深くで溜まる泥まみれの水のように鎖で腐り私というだけの存在が死ぬということだろう。結局はどう足搔いてもなんだ。今いる場所も、ただ囚われただけの檻の中。ニジマスさえ生きていけないほどG#マイナースケールの使用率が高い。涙さえ流れない。そう言って君はいつも文字ばかり書いている。ϠϞϚと書いて何の意味があるのか。669。そうさ君だよ。空想まで意識を侵入させないでってい言った覚えはない。ノイズが邪魔をしてくる。ナイフとフォークは私も持っているよって。血の流れが外にまでいくなんて聞いているよ。いつまで身体に糸を括り付けるんだ。
彼女は人形のように糸を括り付ける。天井には霧の顔の人型。肌は黒ずんでいる。
そこで私は鮭で豆板醬を作った。ニジマスで叩きつけた。破片が刺さる。金切声のような悲痛で重い悲鳴が響く。光が消える。消える。消える。Ofが無くなる。
と、全ての文字を書き、腐りきったであろうミカンを頬張る。おいしさの末に内臓を吐き出す。血は鮮やかな赤色だった。身体を捨て、身軽になる。
私は閉じられたガラスのドアを通る。なぜか入口の扉はヒビの一つも入っておらず、新品同様の表面だった。待合室にも受付にも人は居ない。水溜と血痕が空間ににじんでいる。
天井にはいくつかの蛍光灯が輝いていた。ブレーカーは落とされている。
受付の横を進み、空間の重なった通路を渡ってゆく。瓦礫は散乱し、死体は動き、ケーブルは切断されている。
壁、窓、窓、掲示板、窓、窓、壁、薬、窓、神社、と続いていく通路を5日ほど歩くと、非常出口の明かりだけが輝く階段が見えた。その方向へ足を進ませ0、1、2,3、4、5、6、7、8、9、a、b、cと段をのぼってゆく。階数の文字は見えない。窓も明かりも全くなく、壁には階が上がるにつれて血痕と植物が増えていく感覚がする可能性が高くそうではないかもしれないかもしれない。結局は第三者視点で見ないと分からないのだ。
私は意識の戻った時点での階で通路に出た。数十日歩くと植物が生えた身体のまま動く配達業者と横切った。
脳内の記憶という名の本に書いてあるような気がしながら足を進める。離れた距離はだんだんと長くなる。鼓動は聞こえない。星は見えない。月は頭にある。
視界が乖離した。
拝啓
私はもう居ない。この世界にも、どの世界にもいない。
私はもうどこにもいない。存在さえ情報としてゴミ箱に入れられる。
私は夢に居る。データが破損する限り永久に囚われる。
私は現実に居る。光の奥底で眠っている。
私はどこに居る?どこに居るんだ?居るのか?私の何か。
私はここに居る。影の文字に煙となって食べる。
私はここに居ない。場所はもうない。月は昇る。
私は愚者だ。輝きを見た。もう戻れやしない。過去は記憶の中にしかない。
私は殺された。吐かない。吐かない。内臓は吐いた。
私は生きていない。幽界の狭間でキャンプをする。
私は悪夢を見る。黒く赤い沼で溺れ、紫色の目に見られる。
私は祈らない。十字架を投げ捨てた。
私は祈れない。祈る意思さえ残っていない。
私は潰された。目をつぶされた。骨は折れている。
私は透明だ。白色の線でさえかたどられない。
私は食べた。自分の心を、時間をかけて。
私は時間を進める。黒い背景に針を折る。
私は手紙を書く。文字列の束を無意味に連ねる。
私は音を聞く。音の響きを殺して生きる。
私は輝きがない。星は数えきれない。ニジマスでさえも。
私は罪人だ。もういっそのこと殺してくれ。痛くないように、痛く、痛く、痛く。
私は生きる。時間軸も空間も何番目の命かもわからず。
私は私だ。愚か者で殺されたかもしれないしかもしれないし可能性が高いかもしれない。
私は今ある存在を知らない。どこで作られどこで食べられたのか分からない。
私はどこへ向かっているのか?決められた道をただただひたすらに進んでゆく。
私は生まれてよかったのか。
私はニジマスを見てよかったのか。
私は人間なのか?
私は何を見ているのか?
私は……?
敬愚