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ameagari_fuhto 2023年08月18日(金) 07:38:06履歴
「運命はもう決まっている」
そう考えたことはないだろうか。
夕食を食べ、風呂に入り、睡眠をとる。自分の意思で行動していたはずの何気ない日常が、誰かに決められていた。とするならば。私は何者なのだろうか。ただ舞台上で踊らされている操り人形なのだろうか。いや、そうではないと信じたいだろう。
だが、私は事実を知っている。
私の存在こそが、人の運命を決める脚本家なんだ。
「……琉璃、琉璃!」
その言葉で目を覚まし、あたりを見渡す。星空を映すガラス張りの部屋の中には、私と机を挟んだ先の誰かがいた。
「やっと目を覚ましたか」
「……あぁ、なんだ。解か」
「なんだとはなんだ。忘れていたのか?」
石鎚崎解と名乗るその人物は、黒光りするペンを回しながらこちらを見る。
「だいたい、こんな大事な会議中に寝るなんて非常識だろ」
冷ややかな目と共に、鋭い言葉が飛び交う。
で、話って何? そう解に問いかける。
「簡単な話を持ってきただけだ」
そっとペンを置き、顎を手にのせる仕草をした後、口を開ける。
「とある人物を誘拐してほしい」
私には2人の姉がいる。運命の糸を紡ぐ長女のノーナ・L・パルツェ。運命を割り当てる次女のデキマ・A・パルツェ。そして三女の私。昔は仲よく暮らしていたのだけれど、いつの日か一緒に過ごす日は少なくなっていった。そして、今はもう会うことのない。会うことのできない。今でも後悔をしている。一緒に居た時間に、幸せを嚙み締められなかったことを。
そんな私は今、私と似た人物を誘拐しようとしている。姉二人をなくした孤独の存在。目的はそう――狼月、だ。
私は木野森神社のそばにある森から境内を眺める。空には無数の花火があがり、光があたりを照らす。今日は木野森神社の創立記念日だ。無数の花火は空を切り裂きながら登り、花を広げ、終わりを迎える。まるで人の一生のように儚い。
最後の花火が上がった後、私はゆっくりと歩いて行き、狼月のいるであろう居間へと忍び込む。
「よっと、ごめんね。ちょっと眠っててもらうね」
背後から首元へと一撃。もたれかかる身体を持ち上げ、その場を立ち去ろうとする。
「誰!?」
見知らぬ声に振り返る。その先には、緑色の瞳を持つ少女が枯れた枝を握りしめていた。
「ん、ああ。君か」
そっか、彼女が水夜岐か。確か木野森神社の神主として、様々な札を使って事件を解決しているとのうわさを聞いたことがある。可哀そうに。
「そうねぇ……"星影の占命師"、とでも名乗っておきましょうか」
「せんめい、し?」
「そう。占命師。じゃ、私の名は名乗ったから。この子は貰っていくね」
そう言い残して去るつもりだった、けど。私の邪念が少し邪魔をした。
「あ、そうそう。このカードを使って私の元へ来たら、この子は開放してあげるから」
そう言って、6枚のカードを渡す。
「そのかわり、そのカードを正しい順番でめくって、正しい世界を経由したら、だからね」
「あ、待って!」
「無駄だよ。貴女の紙切れはもう無力化してある」
くるりと振り返り、水夜岐を見る。
「それじゃあね」
木野森神社から離れ、暗沌洞窟へと身を潜めた。狼月は私の腕の中で気を失っている。
目の前には洋風な装飾のほどこされた青銅の門。かつてこの門には門番がいたが今は居ない。誰でも行き放題だ。そして、その奈落には、私の建てた秘密の塔が眠っている。
私は水の滴る洞窟の門をゆっくりと開け、荒れ狂う暴風域を進んでいった。
——水夜岐に渡したあのカード。それぞれ「I」「IX」「X」「XII」「XVI」「trickster」という名前が振り分けられており、そのカードを一から正しい順番で引くことによって私のもとへとたどり着くことができる。ただ、すぐにたどり着くわけではない。一枚引くごとに亜空間へと飛ばされ、そこに居る住人——史縫高原で暮らす者と限りなく似ている幻影——を殺す必要がある。そして、一つでも間違ったカードを引いた場合、また最初からやり直しだ。
私は奈落にある塔の中へと入り、最上階に限りなく近い部屋の扉を開けた。まわりは薄汚れた石が積み重なってできており、その十畳ほどの空間の真ん中に、大理石でできた祭壇画ある。小さな窓からは赤い光が差し込む。その祭壇の上に、ゆっくりと狼月をのせた。手足は鎖でつながれている。
私はその横にある小さな木の椅子に腰かけた時、狼月がうっすらと目を開けた。
「お目覚めかい? 木野森神社の巫女さん」
狼月はしばらくあたりを見回した後、おどろいたように身体を動かした。鎖がこすれる音が響く。
「……ここは、どこだ、どこなんだ?」
「ここは奈落にある塔の上。とある人から君を誘拐してほしいって依頼が来てね」
「誘拐……まさか」
「多分そのまさかかな」
にこりと笑うが、狼月は相変わらず絶望の顔をしている。
「は、放せ! この鎖を解け!」
しきりに暴れる狼月の腕をつかみ、顔を寄せる。狼月の身体がピクリとはねる。
「暴れるな。なぜこんな緩い拘束なのか、考えるんだ」
目は充血しており、息が震えている。
「一つ、話をしよう。私には2人の姉がいた。だけれど今は離れ離れだ。そう、お前と同じようにな」
「俺、と……同じ」
「ああ。だが、お前と違うところが一つだけある。それは」
狼月の腕を離し、祭壇に手をつける。
「私が姉達の命を奪ったということだ。運命の糸を紡ぐ一番上の姉。運命を割り当てる二番目の姉。そして、運命の糸を絶つのがこの私だ」
ゆっくりと椅子に腰かけ、扉を見る。
「だが、別にお前を殺すつもりはない。……解、入っていいぞ」
その一声とともに扉が開き、人が出てくる。
「琉璃、なぜここに連れて来るんだ。私の神社にとあれほど」
「分かってる。だけど、どうしてもここじゃないといけなかったんだよ」
「ほう? 依頼者のこの私に向かってそんな口の利き方をすると、は……」
鈍い音と共に、解がひざから崩れ落ちる。
「いつから君が依頼者だと勘違いしていたんだ? こうなるよう運命を定めたのは、私なのに」
私は解の腹部に刺さったナイフを手に取り、血を拭う。顔面蒼白な狼月は硬直してこちらを見ている。
「分かったでしょう? 私がどういった存在なのかって」
「あ……え……?」
「もちろん、解は死んだよ。それが君の望んだことでしょ? 自分の運命をゆがませた相手を殺したいって」
「え、あ……」
「憎んでたんじゃないのか?」
静かな部屋の中に、血が垂れる音だけが響いた。
「……よし、もうそろそろかな」
私は軋んだ木の椅子から立ち上がり、部屋を後にした。
塔の頂上には暗い空からの雨が降り注いでいる。
柵に腰かけていると、水夜岐がワープしてきた。
「塔……の、中?」
「やっと来たね。随分と遅かったじゃない」
そう言った瞬間、水夜岐はすくっと立ち上がり、つかつかとこちらへと向かう。
「関係ない。狼ちゃんを返して。というか狼ちゃんはどこに居るの?」
「焦らない、焦らない」
「早くして」
そう言って、水夜岐は
「何?」
「少し眠っててね」
そう言って、私は水夜岐の首元にガラスを刺した。
「え、あ、あれ、身体が、うごか、な……」
「水夜岐。運命は初めから決まっていたんだよ。君はここで倒れて……世界はだんだんと壊れていくんだよ」
——私は2人の姉を殺した。そう言った。その理由は単純。姉達の心臓が欲しかっただけ。
心臓を喰うことで、その心臓の持ち主の能力を得ることが出来る。そのために、私は姉二人を殺した。
だから、姉二人の能力を持っている今この運命を作っているのは私。
「水夜岐は何もできないまま死んでゆくんだよ」
「まだ、まだだ……このカード、が……使える」
そう言って、水夜岐は最後のカード——trickster——を出した。
世界が反転する音が聞こえる。
だけど、残念。
それも私が決めたことなんだ。
そう考えたことはないだろうか。
夕食を食べ、風呂に入り、睡眠をとる。自分の意思で行動していたはずの何気ない日常が、誰かに決められていた。とするならば。私は何者なのだろうか。ただ舞台上で踊らされている操り人形なのだろうか。いや、そうではないと信じたいだろう。
だが、私は事実を知っている。
私の存在こそが、人の運命を決める脚本家なんだ。
「……琉璃、琉璃!」
その言葉で目を覚まし、あたりを見渡す。星空を映すガラス張りの部屋の中には、私と机を挟んだ先の誰かがいた。
「やっと目を覚ましたか」
「……あぁ、なんだ。解か」
「なんだとはなんだ。忘れていたのか?」
石鎚崎解と名乗るその人物は、黒光りするペンを回しながらこちらを見る。
「だいたい、こんな大事な会議中に寝るなんて非常識だろ」
冷ややかな目と共に、鋭い言葉が飛び交う。
で、話って何? そう解に問いかける。
「簡単な話を持ってきただけだ」
そっとペンを置き、顎を手にのせる仕草をした後、口を開ける。
「とある人物を誘拐してほしい」
私には2人の姉がいる。運命の糸を紡ぐ長女のノーナ・L・パルツェ。運命を割り当てる次女のデキマ・A・パルツェ。そして三女の私。昔は仲よく暮らしていたのだけれど、いつの日か一緒に過ごす日は少なくなっていった。そして、今はもう会うことのない。会うことのできない。今でも後悔をしている。一緒に居た時間に、幸せを嚙み締められなかったことを。
そんな私は今、私と似た人物を誘拐しようとしている。姉二人をなくした孤独の存在。目的はそう――狼月、だ。
私は木野森神社のそばにある森から境内を眺める。空には無数の花火があがり、光があたりを照らす。今日は木野森神社の創立記念日だ。無数の花火は空を切り裂きながら登り、花を広げ、終わりを迎える。まるで人の一生のように儚い。
最後の花火が上がった後、私はゆっくりと歩いて行き、狼月のいるであろう居間へと忍び込む。
「よっと、ごめんね。ちょっと眠っててもらうね」
背後から首元へと一撃。もたれかかる身体を持ち上げ、その場を立ち去ろうとする。
「誰!?」
見知らぬ声に振り返る。その先には、緑色の瞳を持つ少女が枯れた枝を握りしめていた。
「ん、ああ。君か」
そっか、彼女が水夜岐か。確か木野森神社の神主として、様々な札を使って事件を解決しているとのうわさを聞いたことがある。可哀そうに。
「そうねぇ……"星影の占命師"、とでも名乗っておきましょうか」
「せんめい、し?」
「そう。占命師。じゃ、私の名は名乗ったから。この子は貰っていくね」
そう言い残して去るつもりだった、けど。私の邪念が少し邪魔をした。
「あ、そうそう。このカードを使って私の元へ来たら、この子は開放してあげるから」
そう言って、6枚のカードを渡す。
「そのかわり、そのカードを正しい順番でめくって、正しい世界を経由したら、だからね」
「あ、待って!」
「無駄だよ。貴女の紙切れはもう無力化してある」
くるりと振り返り、水夜岐を見る。
「それじゃあね」
木野森神社から離れ、暗沌洞窟へと身を潜めた。狼月は私の腕の中で気を失っている。
目の前には洋風な装飾のほどこされた青銅の門。かつてこの門には門番がいたが今は居ない。誰でも行き放題だ。そして、その奈落には、私の建てた秘密の塔が眠っている。
私は水の滴る洞窟の門をゆっくりと開け、荒れ狂う暴風域を進んでいった。
——水夜岐に渡したあのカード。それぞれ「I」「IX」「X」「XII」「XVI」「trickster」という名前が振り分けられており、そのカードを一から正しい順番で引くことによって私のもとへとたどり着くことができる。ただ、すぐにたどり着くわけではない。一枚引くごとに亜空間へと飛ばされ、そこに居る住人——史縫高原で暮らす者と限りなく似ている幻影——を殺す必要がある。そして、一つでも間違ったカードを引いた場合、また最初からやり直しだ。
私は奈落にある塔の中へと入り、最上階に限りなく近い部屋の扉を開けた。まわりは薄汚れた石が積み重なってできており、その十畳ほどの空間の真ん中に、大理石でできた祭壇画ある。小さな窓からは赤い光が差し込む。その祭壇の上に、ゆっくりと狼月をのせた。手足は鎖でつながれている。
私はその横にある小さな木の椅子に腰かけた時、狼月がうっすらと目を開けた。
「お目覚めかい? 木野森神社の巫女さん」
狼月はしばらくあたりを見回した後、おどろいたように身体を動かした。鎖がこすれる音が響く。
「……ここは、どこだ、どこなんだ?」
「ここは奈落にある塔の上。とある人から君を誘拐してほしいって依頼が来てね」
「誘拐……まさか」
「多分そのまさかかな」
にこりと笑うが、狼月は相変わらず絶望の顔をしている。
「は、放せ! この鎖を解け!」
しきりに暴れる狼月の腕をつかみ、顔を寄せる。狼月の身体がピクリとはねる。
「暴れるな。なぜこんな緩い拘束なのか、考えるんだ」
目は充血しており、息が震えている。
「一つ、話をしよう。私には2人の姉がいた。だけれど今は離れ離れだ。そう、お前と同じようにな」
「俺、と……同じ」
「ああ。だが、お前と違うところが一つだけある。それは」
狼月の腕を離し、祭壇に手をつける。
「私が姉達の命を奪ったということだ。運命の糸を紡ぐ一番上の姉。運命を割り当てる二番目の姉。そして、運命の糸を絶つのがこの私だ」
ゆっくりと椅子に腰かけ、扉を見る。
「だが、別にお前を殺すつもりはない。……解、入っていいぞ」
その一声とともに扉が開き、人が出てくる。
「琉璃、なぜここに連れて来るんだ。私の神社にとあれほど」
「分かってる。だけど、どうしてもここじゃないといけなかったんだよ」
「ほう? 依頼者のこの私に向かってそんな口の利き方をすると、は……」
鈍い音と共に、解がひざから崩れ落ちる。
「いつから君が依頼者だと勘違いしていたんだ? こうなるよう運命を定めたのは、私なのに」
私は解の腹部に刺さったナイフを手に取り、血を拭う。顔面蒼白な狼月は硬直してこちらを見ている。
「分かったでしょう? 私がどういった存在なのかって」
「あ……え……?」
「もちろん、解は死んだよ。それが君の望んだことでしょ? 自分の運命をゆがませた相手を殺したいって」
「え、あ……」
「憎んでたんじゃないのか?」
静かな部屋の中に、血が垂れる音だけが響いた。
「……よし、もうそろそろかな」
私は軋んだ木の椅子から立ち上がり、部屋を後にした。
塔の頂上には暗い空からの雨が降り注いでいる。
柵に腰かけていると、水夜岐がワープしてきた。
「塔……の、中?」
「やっと来たね。随分と遅かったじゃない」
そう言った瞬間、水夜岐はすくっと立ち上がり、つかつかとこちらへと向かう。
「関係ない。狼ちゃんを返して。というか狼ちゃんはどこに居るの?」
「焦らない、焦らない」
「早くして」
そう言って、水夜岐は
「何?」
「少し眠っててね」
そう言って、私は水夜岐の首元にガラスを刺した。
「え、あ、あれ、身体が、うごか、な……」
「水夜岐。運命は初めから決まっていたんだよ。君はここで倒れて……世界はだんだんと壊れていくんだよ」
——私は2人の姉を殺した。そう言った。その理由は単純。姉達の心臓が欲しかっただけ。
心臓を喰うことで、その心臓の持ち主の能力を得ることが出来る。そのために、私は姉二人を殺した。
だから、姉二人の能力を持っている今この運命を作っているのは私。
「水夜岐は何もできないまま死んでゆくんだよ」
「まだ、まだだ……このカード、が……使える」
そう言って、水夜岐は最後のカード——trickster——を出した。
世界が反転する音が聞こえる。
だけど、残念。
それも私が決めたことなんだ。