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ameagari_fuhto 2023年09月17日(日) 11:41:23履歴
目を覚ますとそこは、汚れの無い真っ白な部屋の中心に立っていた。
あたりにはガラス片とチェス駒が散乱している。
部屋の奥へと目をやると、開いた扉の奥に人影が見えた。
「……何をしている」
私はゆっくりと歩み寄り、銀の弾丸が入ったハンドガンを見知らぬ人物の背中へと向ける。
その人物はゆっくりと立ち上がり、後ろ向きのまま、ゆっくりと声を出した。
実は、私はあの遺書を書く前にあることを頼まれていた。「もう世界を崩壊させないよう頼みこんでくれ。ただ、その存在は危険だから十分に警戒しろ」そう、ガイド音声に頼まれたのだ。私はどうせ死ぬんだからいいかと思いその頼みごとを引き受けた。どうせ死ぬんだから。
「"神の王女"だったっけ。確か崩壊した世界を再生するという鍵となる存在だったか」
何をしているのか、と問い詰める。その人物のただならぬ雰囲気に圧倒され、手が震えている。
「何をしているのか、か。ただ私が作った世界を壊しているだけだよ」
その言葉を聞いたとき、あの記憶が脳裏に思い浮かぶ。空が灰色に染まり、地面がひび割れ、風が嵐のように吹き荒れる。そんな終末という言葉が似合う光景だったであろう。
「世界、を壊す……?」
「ああ、そうだ。お前が居た世界を壊しているんだよ」
その瞬間、その人物がこちらへと振り向く。にやりとしたその表情からは、まるで心の中まで見透かしているような感情が込められているように感じる。私はハンドガンを持つ左手の震えを抑えるようにして力を込め、引き金に手をかける。
「おっと、私は銃で殺すことはできないよ。だって私は神様だからね」
——神様。その言葉が脳内を駆けまわる。
私は昔から神だとか幽霊だとかの存在を嫌っており、そんなご都合主義の存在なんていないと考えていた。しかし、私の経験したあの崩壊の日の出来事。これは神話の存在を信じてしまうほどに現実的でありながら神の存在を肯定するような光景だった。科学的に証明できない街の崩壊、人の消失。そして、研究所で発見した「神殺しの弾丸」。すべてがまるで小説の世界にいるようだった。
そして、目の前にいる存在が——神様、か。
「名前はなんだ」
眉間にしわを寄せ、相手を見やる。目の前に居る「神様」は、私が言った言葉をあざ笑うように口をあけた。
「銃を向ける相手に名前を聞くなんて、どうかしてるんじゃない?」
ま、私はそんな奴が好きだけど。と言い、こちらへと一歩歩み寄ってきた。
「私の名前は天狼星琉璃。お前は、静香川アル、だな」
「なんで私の名前を?」
「当然だ。だって私はこの世界をつくった神様だし」
少しの驚きのあまり、銃を握る手が少しゆるむ。そしてその瞬間を待っていたかのように琉璃は私の左手首をつかむ。突然のあまり銃を手放してしまい、私は地面へと倒れ込み、琉璃は奪った銃を私の額へと突きつける。
「ほんと、これだから人間は」
目をぎらつかせた瑠璃はその手を動かすことなく、話をつづけた。
「いっつもいっつも私が世界を終わらせようとしたらこんなやつが乗り込んでくるんだよね。私を殺そうとしてるのか知らないけど調子にのりやがって」
銃を握っている力が強くなった気がした。
「その人間がやけに強いからその一人殺すだけで何百年もかかるんだよ! 私が作った世界なんだから崩壊させようが私の勝手だろ!」
銃を握っている力が強くなった気がした。
「もう嫌なんだよ! 私の作った欠陥だらけの世界が! 壊したいんだよ!」
銃を握っている力が強くなっている。
「お前だって! 所詮ただの人間のくせに! 調子に乗りやがって!」
銃を握っている力が強くなっている。
「いいかげん死ねよ! 私はこんなやつらを作った覚えはない!」
銃を握っている力が強くなっている。瑠璃の息が荒くなっている。目は殺気にみちており、全身に力が入っている。そんな琉璃を見つめ、口をあけた。
正直、私はこの世界が嫌いだ。ただ、私はこの世界にはこの世界が好きな人がいるから、残してもいいんじゃないかと。そう思っている。
だってそうじゃないか。この世界が好きならこの世界で生きて、嫌いなら死ぬか好きになるように生きればいいだけの話……だが、それができるかはまた別問題。殺すなら殺せよ。そのあと世界を崩壊させればいいじゃないか。
「琉璃は最初から分かってたでしょ? 私を殺すのは前の人達よりも遥かに簡単だって」
なのになんで、殺さない?
その一言を皮切りに、私と琉璃の間には長い沈黙が続く。
現実世界とは違って、風の音や時計の針の音もない真の静寂があたりを包み込む。
その静寂を切り裂いたのは、銃声だった。
横に伸びたその銃身は、銃口から細い煙を伸ばしていた。