最終更新:
ameagari_fuhto 2022年11月17日(木) 08:37:13履歴
SCENE : Prologue-["真夜中の用事"(木野森神社)].2:00
まだ朝日が顔を出さない時刻。夜の冷たさは一層深まり、寝静まった木野森神社からは小さな足音が聞こえる。
月明りに照らされた縁側に座っているのは、この神社の巫女である狼月だ。
【狼月】「……行くか」
そう言い残し、俺は神社を後にする……はずだった。
【水夜岐】「どこに行くの」
【狼月】「——ッ!」
砂利に足をつけるのと同時に、水夜岐の声が後ろから聞こえた。
【水夜岐】「こんな真夜中にどこに行くの?」
【狼月】「……お前には関係ない」
【水夜岐】「本当に? いつもなら書置きを残してるはずだよね。なのに……」
【狼月】「五月蠅い!」
夜の冷たい静けさの中に、自分が言い放った一言が反響する。
お前には関係ないんだ。関係させたくないんだ。犠牲になるのは俺だけでいい。
【狼月】「じゃあな。夜明けまでには帰る」
その言葉を置いて、俺は天津岳へと向かっていった。
SCENE : first-["冷気を帯びたナイフの草"(天津岳 草の生い茂る道)].2:30
川の流れる音と虫の鳴き声が夜の静けさに染み込み、神妙な雰囲気を醸し出している。その空気を吸い込んだ草木は冷たく鋭いナイフのようだ。
そんな背の高い草をかき分け、俺は道なき道を進んでいく。
——そういえば、家出の時もこんなことしてたな。同じ場所で、同じ時間で。
【狼月】「くそっ……こんなに草が生えていたか……?」
小さい頃はもう少し草の密度が低かったはずなのだが。ただ記憶が改ざんされただけなのか?
そんなことを考えながら俺は進んでいった。目的地は目の前にある——天津岳だ。
SCENE : second-["道端の供物"(天津岳 獣道)].3:00
降り積もる落ち葉と苔むした石が散乱する獣道を足で踏みしめながら進んでいく。
この道は俺が小さい頃によく通っていた道だ。筍が生えていたりして、それを持ち帰って食べた……いや、違うな。”食べられた”の方が正しいか。
懐かしい道を進みながら、俺は嫌な記憶に軽く蓋をした。夜はまだ更けていない。
SCENE : third-["心の鎖"(天津岳 鎖場)].3:30
険しい崖にかけられた鎖を伝い歩く。
この場所は、昔とある人物が修行に使っていた場所らしい。
ここの崖から落ちた時の傷がまだ身体に残っている。
——いや、身体だけじゃない。心の傷も残っている。
SCENE : fourth-["雨の滝"(天津岳 天壌の滝)].4:00
山を登り続け、天壌の滝にたどりついた。この滝の近くに、懐かしの神社があるはずだ。
水飛沫が痛い。
SCENE : fifth-["支配された家族"(天津岳 石岳神社参道)].4:30
滝のそばを歩くと、少し開けた場所に出た。そこには懐かしの神社があった。
【???】「ほら。やっと来た」
【???】「遅かったわね」
鳥居のそばから聞こえる2人の声。
俺の唯一の理解者——だった人達。

白狼役 漸 Zen Hakuroueki

白狼役 互 Go Hakuroueki
【漸】「約束は深夜だったはずだ。なのになぜこんなにも遅れる?」
【狼月】「…………」
【互】「まあそれくらいにしてやりなよ。もう狼月は私たちとは違うからね」
【狼月】「……そうだな。もう俺はお前らとは違う」
昔は血の繋がった姉妹で仲が良かったのだが、今となっては、もう俺は邪魔者扱いだ。
で、これから先にはどうやって行けばいいんだ? そう尋ねる。
【互】「この先に行けばいいのよ」
【漸】「待たせているからな。急いで行け」
【狼月】「ああ。そうさせてもらう」
俺は荒れた石畳を駆けていった。
気をつけろよ。そんな言葉が聞こえた。
SCENE : final-["精神の支配者"(天津岳 石岳神社拝殿)].5:00
【???】「おや。久しぶりじゃないか」
そこに立っていたのは、数えきれないほどの眷属を従えている者がいた。

石鎚崎 解 Kai Ishizuchizaki
【解】「お前が家出をしてから何年経ったか?」
【狼月】「…………」
【解】「答えろ」
【狼月】「……20年」
【解】「そうだ。せっかく地位を上げてやったのに急に家出をしやがって」
【狼月】「……悪かったな。俺は縛られるのが嫌いなんだ」
俺は他人に従うのが嫌いだ。今は名だけの巫女をしている。それが俺にとって楽だからだ。
【解】「……まあいい。今日呼んだのはまた別のことだ」
そう言うと、解は奥の棚から小さな瓶を取り出した。
【解】「これは神想川に流れる水を加工したものだ。これを明日の深夜に飲むんだ。いいな?」
解は妖しい輝きを持つ液体をフラフラと揺らしている。
その動きを止めるように、その瓶を奪い去った。
ははは、と笑いながらこちらを見てくる。目の中には”嘘”という文字がが紛れ込んでいるように見える。
【狼月】「……何故、何故これを俺に渡した?」
【解】「簡単だ。そうすれば、お前は幸せになれる」
解は、俺を”幸せ”にさせる物を渡すためだけにここへ呼んだらしい。
明らかに不自然。不自然すぎる。
【狼月】「…………」
【解】「分かったな? じゃあ、今日はこれで終わりだ。じゃあな」
そう言い放った解は、いつの間にか消えていた。
そのことを確認した俺は、来た道を戻っていった。
【互】「どうだったの?」
鳥居の前で立っていた互と漸がこちらを見てくる。
もう昔のお前らじゃないな、と感じさせる。
【狼月】「……いや、別に」
【互】「……私は知っているわ。青い薬をもらったんでしょ?」
【狼月】「なんで……知ってるんだ?」
【互】「そんなことはどうでもいいわ」
【漸】「またいつか会えるといいな もう此処へは来るなよ。絶対だ」
かけられた言葉の裏をにわかに感じながら、俺はそのまま歩いて行った。
SCENE : epilogue-["心の残響"(天津岳 天狗高原)].5:30
——天狗高原。少し狭いが”高原”と名がつくこの場所は、一人でいるのに最適な場所だ。
朝日が顔を出し始める時間となった。だが、曇り空が続いている。
俺は、解からもらった小さい瓶を手に取った。青い液体が揺れ動いている。
【狼月】「……くそっ!」
その言葉を言い放ち、岩に投げつけた。
鋭い音と共に青い液体と透明な欠片が飛び散った。
この液体は神想川に流れる水を加工したものではない。飲んだ相手の精神に干渉させるためだけに作られた”薬”だ。深夜に飲ませるのも、人から怪しまれないようにするためだろう。
俺は小さい頃にこの薬を飲まされた人を何人も見てきた。全員、解の眷属となった。
俺は空を見上げた。
にわかに降る雨が心に冷たく刺さり続けた。

まだ朝日が顔を出さない時刻。夜の冷たさは一層深まり、寝静まった木野森神社からは小さな足音が聞こえる。
月明りに照らされた縁側に座っているのは、この神社の巫女である狼月だ。
【狼月】「……行くか」
そう言い残し、俺は神社を後にする……はずだった。
【水夜岐】「どこに行くの」
【狼月】「——ッ!」
砂利に足をつけるのと同時に、水夜岐の声が後ろから聞こえた。
【水夜岐】「こんな真夜中にどこに行くの?」
【狼月】「……お前には関係ない」
【水夜岐】「本当に? いつもなら書置きを残してるはずだよね。なのに……」
【狼月】「五月蠅い!」
夜の冷たい静けさの中に、自分が言い放った一言が反響する。
お前には関係ないんだ。関係させたくないんだ。犠牲になるのは俺だけでいい。
【狼月】「じゃあな。夜明けまでには帰る」
その言葉を置いて、俺は天津岳へと向かっていった。
SCENE : first-["冷気を帯びたナイフの草"(天津岳 草の生い茂る道)].2:30
川の流れる音と虫の鳴き声が夜の静けさに染み込み、神妙な雰囲気を醸し出している。その空気を吸い込んだ草木は冷たく鋭いナイフのようだ。
そんな背の高い草をかき分け、俺は道なき道を進んでいく。
——そういえば、家出の時もこんなことしてたな。同じ場所で、同じ時間で。
【狼月】「くそっ……こんなに草が生えていたか……?」
小さい頃はもう少し草の密度が低かったはずなのだが。ただ記憶が改ざんされただけなのか?
そんなことを考えながら俺は進んでいった。目的地は目の前にある——天津岳だ。
SCENE : second-["道端の供物"(天津岳 獣道)].3:00
降り積もる落ち葉と苔むした石が散乱する獣道を足で踏みしめながら進んでいく。
この道は俺が小さい頃によく通っていた道だ。筍が生えていたりして、それを持ち帰って食べた……いや、違うな。”食べられた”の方が正しいか。
懐かしい道を進みながら、俺は嫌な記憶に軽く蓋をした。夜はまだ更けていない。
SCENE : third-["心の鎖"(天津岳 鎖場)].3:30
険しい崖にかけられた鎖を伝い歩く。
この場所は、昔とある人物が修行に使っていた場所らしい。
ここの崖から落ちた時の傷がまだ身体に残っている。
——いや、身体だけじゃない。心の傷も残っている。
SCENE : fourth-["雨の滝"(天津岳 天壌の滝)].4:00
山を登り続け、天壌の滝にたどりついた。この滝の近くに、懐かしの神社があるはずだ。
水飛沫が痛い。
SCENE : fifth-["支配された家族"(天津岳 石岳神社参道)].4:30
滝のそばを歩くと、少し開けた場所に出た。そこには懐かしの神社があった。
【???】「ほら。やっと来た」
【???】「遅かったわね」
鳥居のそばから聞こえる2人の声。
俺の唯一の理解者——だった人達。

白狼役 漸 Zen Hakuroueki

白狼役 互 Go Hakuroueki
【漸】「約束は深夜だったはずだ。なのになぜこんなにも遅れる?」
【狼月】「…………」
【互】「まあそれくらいにしてやりなよ。もう狼月は私たちとは違うからね」
【狼月】「……そうだな。もう俺はお前らとは違う」
昔は血の繋がった姉妹で仲が良かったのだが、今となっては、もう俺は邪魔者扱いだ。
で、これから先にはどうやって行けばいいんだ? そう尋ねる。
【互】「この先に行けばいいのよ」
【漸】「待たせているからな。急いで行け」
【狼月】「ああ。そうさせてもらう」
俺は荒れた石畳を駆けていった。
気をつけろよ。そんな言葉が聞こえた。
SCENE : final-["精神の支配者"(天津岳 石岳神社拝殿)].5:00
【???】「おや。久しぶりじゃないか」
そこに立っていたのは、数えきれないほどの眷属を従えている者がいた。

石鎚崎 解 Kai Ishizuchizaki
【解】「お前が家出をしてから何年経ったか?」
【狼月】「…………」
【解】「答えろ」
【狼月】「……20年」
【解】「そうだ。せっかく地位を上げてやったのに急に家出をしやがって」
【狼月】「……悪かったな。俺は縛られるのが嫌いなんだ」
俺は他人に従うのが嫌いだ。今は名だけの巫女をしている。それが俺にとって楽だからだ。
【解】「……まあいい。今日呼んだのはまた別のことだ」
そう言うと、解は奥の棚から小さな瓶を取り出した。
【解】「これは神想川に流れる水を加工したものだ。これを明日の深夜に飲むんだ。いいな?」
解は妖しい輝きを持つ液体をフラフラと揺らしている。
その動きを止めるように、その瓶を奪い去った。
ははは、と笑いながらこちらを見てくる。目の中には”嘘”という文字がが紛れ込んでいるように見える。
【狼月】「……何故、何故これを俺に渡した?」
【解】「簡単だ。そうすれば、お前は幸せになれる」
解は、俺を”幸せ”にさせる物を渡すためだけにここへ呼んだらしい。
明らかに不自然。不自然すぎる。
【狼月】「…………」
【解】「分かったな? じゃあ、今日はこれで終わりだ。じゃあな」
そう言い放った解は、いつの間にか消えていた。
そのことを確認した俺は、来た道を戻っていった。
【互】「どうだったの?」
鳥居の前で立っていた互と漸がこちらを見てくる。
もう昔のお前らじゃないな、と感じさせる。
【狼月】「……いや、別に」
【互】「……私は知っているわ。青い薬をもらったんでしょ?」
【狼月】「なんで……知ってるんだ?」
【互】「そんなことはどうでもいいわ」
【漸】「またいつか会えるといいな もう此処へは来るなよ。絶対だ」
かけられた言葉の裏をにわかに感じながら、俺はそのまま歩いて行った。
SCENE : epilogue-["心の残響"(天津岳 天狗高原)].5:30
——天狗高原。少し狭いが”高原”と名がつくこの場所は、一人でいるのに最適な場所だ。
朝日が顔を出し始める時間となった。だが、曇り空が続いている。
俺は、解からもらった小さい瓶を手に取った。青い液体が揺れ動いている。
【狼月】「……くそっ!」
その言葉を言い放ち、岩に投げつけた。
鋭い音と共に青い液体と透明な欠片が飛び散った。
この液体は神想川に流れる水を加工したものではない。飲んだ相手の精神に干渉させるためだけに作られた”薬”だ。深夜に飲ませるのも、人から怪しまれないようにするためだろう。
俺は小さい頃にこの薬を飲まされた人を何人も見てきた。全員、解の眷属となった。
俺は空を見上げた。
にわかに降る雨が心に冷たく刺さり続けた。