project史縫というシリーズについてまとめたwikiです。

カレンダーは春を指し、青い空と明るい日差しを見ていた。
縁側からの風は涼しく、暑い空気を追い払うように流れている。
その縁側に、仰向けで寝転がっている水夜岐。
うんうんと唸りながら空を眺めている。
「あぁ……暑い……。ねえ狼ちゃん、今って春だよね?」
「ああ、そうだが」
「なんでこんなに暑いのよ……」
それもそうだ。まだ春なのに、こんなにも暑いからだ。
というか、ここは高原のため涼しいはずなのに、なぜこんなに暑いのだろうか……。
水夜岐はこちらに視線を移し、俺の手元を見ている。
そして、疑問をもったように俺に対してたずねる。
「というかさ、なんで狼ちゃんは何を食べてんの?」
「かき氷」
「かき……氷?」
「知らないのか?」
「うん」
まさか……食べたことないのか?食べたことがありそうなんだがな。
まあ、この高原に来る前にはいろいろあったらしいから仕方ないのかもしれない。
「なら買ってくるか?かき氷」
「うん!」
こんな日差しの中出かけるのは気が引けるが、水夜岐のためなら行くしかないと自己暗示をかける。
「少し遠いけれど、かき氷が売ってあるところまで行くか」


◆◇◆◇◆ ◆◇◆◇◆


夏のような日差しが降り注ぐ空に、砂利を踏みしめる音が響き渡る。
「ねえ。本当にこっちにあるの?」
不安げな顔をしながら水夜岐が訪ねてくる。
「何回聞いてくるんだよ。だからこっちにあるって」
水夜岐はまだ疑問を持っているようだ。
かき氷に対しての期待と疑問が入り混じっている、のかな?
「でもさ、こっちって結界のあるところじゃない? 本当にこんなところにあるの?」
「だからこっちにあるんだってば。ほら」
と、指をさした。

需品商人団の移動式売店。
不定期だが、およそ一週間に一回くらいのペースでここに売店が開く。
需品商人団は数人からなる小さなグループであり、今日はそのリーダー的な人が店番のようだ。
「やあ、狼月さん。かき氷はおいしかったかい?」
俺もよく利用しているため、比較的仲がいい。この売店、とても便利だから店が開いている時は必ず利用している。
「ああ、もちろんおいしかった」
「そうか。それは良かったで、隣の人は誰?」
「こいつは水夜岐。俺の親友」
そういえば、水夜岐とかの話はしていなかったな。
親友がいる、ということは話した気がするけど。
「あ、初めまして水夜岐さん」
「こちらこそ」
水夜岐、実は少しだけ人見知りだったりする。
「で、だ。まだかき氷はあるか?」
「ああ。まだあるぞ。何味だ?」
「水夜岐、何味?」
そう尋ねると、水夜岐はきょとんとした顔を見せた。
「逆に何味があるの?」
そうか、やっぱりかき氷の存在自体知らないんだな……。
何味があるのか分からない、ということで俺の好きな味でも頼もう。
「あーそうか。なら、イチゴ味で」
「はいよ」

四角く切り出された透明な氷がガリガリと音を立てながらくるくると回っている。
かき氷機から出てくる氷は、雪のように降り器の中に入っていく。
かき氷を作るのは朝飯前だと言わんばかりの手さばきで、あっという間に器の中に小さな雪の山が出来上がった。
その山に、ドロッとした赤いシロップがかけられる。

「はいよ。水夜岐さん」
「うわぁ……」
水夜岐はきらきらと目を輝かせながらかき氷を見つめている。
子供かよ、と思ってしまうのも無理がない。
「ねえ、これどうやって食べるの?」
「そのスプーンでシロップと氷を混ぜながら食べるのがおすすめ」
「へぇ……」
シャリシャリとしたきめ細かな音を立てながら、氷が赤いシロップ色に染まる。
そのかき氷が、スプーンですくられて水夜岐の口に運ばれる。
「んー!おいしい!」
「そうか。よかったな」
水夜岐はそのままパクパクとかき氷を口に運んでいく。
「うっ……頭が痛い……」
「かき氷特有の頭痛だな。かき氷の器を頭に当てるといいらしいぞ」

そんなこともありながら、水夜岐はかき氷を完食した。
好きな物を出された時の子供のようにはしゃいで食べていた。なぜか自分もうれしいように感じるひと時だった。
「ありがとねー商人さん!」
「ああ。いつでも来いよ」
「ええ!」


◆◇◆◇◆ ◆◇◆◇◆


少し日が傾いたが、まだまだ昼の日差しが降り注ぐ。
木々はさわさわと音を立て、明るい日光を細かい光に変えている。
神社の参道の階段を歩いていると、水夜岐が声をかけてきた。
「ねえ、狼ちゃん、また明日も食べよう!」
「あ、ああ。そうだな」
「絶対、ね?」

水夜岐の笑顔を見ていると、なぜか悩みも吹き飛んでいった。








<後日>
「ねえ狼ちゃん。ミゾレさん達っている?」
水夜岐がかき氷を食べながら聞いてきた。
ミゾレさん達、ということは、先代の神主である「深淵夜花 ミゾレ」と「天之道 水結」たちだろうか。
「いや、知らないが?」
「おかしいな……」

これから、私たちはとある事件に巻き込まれるのだが、それを今の水夜岐たちはまだ知らない。

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