project史縫というシリーズについてまとめたwikiです。





 カレンダーは12月の24日を示し、横にはクリスマス・イブの文字が書かれている。この日は西洋のお偉いさんが誕生した日——クリスマスの前日であり、クリスマスは世界中で祝われる大切な日らしい。
 窓の外は小さな雪が降り積もってゆき、ひざ下まで雪が積もっている。
「お、ミゾレさんもう寝るんですか?」
 私が寝室のふすまに手をかけた時。水夜岐がやってきた。
「……ああ水夜岐か。少し眠くなってきているからな」
「そうですか。では、おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
 スー……タンッ、と軽い音を鳴らしてふすまが閉まる。途端に眠気そのまま倒れそうになりながら、私は眠りついた。

 体中の冷たさを感じ、うっすらと目を開けた。 いつのまにか私は布団をはいでいたようだ。自分の寝相は悪くないと思っていたのだが、意外とそうではないのかもしれない。
 ……それだけだったらどれほど良かったか。
 目の前に広がるのは一面に広がった本棚が無限に広がる空間。その本棚は私が見たことあるような本棚ではなく、ホログラムのような本棚だった。手を伸ばせば簡単にすり抜けてしまう。
 「夢……なのか?」
 きっと、必ずこれは夢だ。夢だ。そうだ、夢なんだ。
 目を覚ませば、朝が来る。
 ここがどこだか分からないけれど、私は目を瞑ろうとした。
「あら。ミゾレさんね」
 一瞬にして目の前に現れた謎の人物。水色の髪に白い服をまとい、背中からはコウモリのような水色の羽が生えている。
「私は白鷺天華。この空間を管理している人よ」
「この空間の……管理」
「そう。ここは潜在反夢って言って、いろんな人の悪夢の記憶が保管されているの」
「はぁ……よく分からないけど……これは夢ってこと?」
「いや、そうじゃない」
「え?」
「あなたの思う夢はただの空想。この空間は現実。ただ夢の中の記憶を保管しているだけ」
「何のためだ?」
「それは言えない。言ったら大変なことになるからね」
 天華は苦い顔をしてこちらを見る。
「で、だ。天華に聞きたいことがあるんだが」
「何?」
「なんで私はここに居るんだ?」
 そう言った途端。視界が真っ暗になった。
「少しだけ夢を見ててね」



「ミゾレ……? どうしたの?」
「……ん、ああ。あれ?」
 気付けば私は海辺で立ち尽くしていた。
 隣には……花柄のワンピースを着た——水結が、そこに居た。
「水結……どうしてその服を……?」
 このワンピースは、水結が亡くなる前によく着ていた服。水結と一緒に火葬で出したはずなのだが……。
 それにこの場所。水結と一緒に行ったことのある場所だ。
「どうしたの? この服ならいつも着てるじゃない」
「そう……なのか。そうだよな」
 水結はさも当たり前かのような目でこちらを見てくる。
 これは夢なのか? 現実なのか? 夢であるならこの状況も正しいはずなのだが……夢にしては感覚がリアルすぎる。
「ミゾレ、さ。早く行こ?」
 私の思考を遮るように、水結が小さな手を差し伸べる。海に太陽が沈む。
「あ、ああ。行こうか」
 水結の手に私の手を重ねた。

 手のぬくもりを感じる前に、世界が、視界がゆがんだ。

「ミゾレ。来てくれたんだね」
 気付けば目の前には病室のベットで横になっている水結が居た。
 やせ細った身体のそばには点滴の袋が吊り下げられている。
「水結……?」
 頭で考えるよりも先に手が伸び、冷たい手を握っていたが、はっと気が付き周りを見渡したが、先ほどと何ら変わりない。いったって普通の病室がそこにあった。
 私は水結をもう一度見つめなおした。水結はこちらを見ると、ゆっくりと窓のほうへと向いた。窓には桜の花が咲き乱れている。
「もう……春……なんだね」
「ああ、そうだな」
 その一言一言が、私の心の中に深く入り込んだ。
「もう……泣かないでよ、ミゾレ」
 水結の顔から笑みがこぼれる。

 これからの結末は知っている。目を背けたいが変えることのできない結末。

「じゃあね……また、来世で……」

 その一言で、水結の手から力が抜け落ちてゆく。
 私の手から水結の手が滑り落ちた時。甲高い電子音が鳴り響いた。
 窓からは桜の花びらが舞い降り、水結の手に乗った。
 もう何もできない。こうするしかなかったんだ。

 過去に見たものと何ら変わりない視界。
 涙を手で拭った後、目の前には無数の本棚が見えた。



「お疲れ様。貴女のトラウマを少し、見せてもらったわ」
「そうか……何のためなんだ……」
 悲しみが心からあふれ出す。
「それは……またいつか知ることになると思うわ。さぁ、目を瞑って……?」
 言われるがままに目をゆっくりと瞑り、意識が落ちていった。

 目を開けた時は普段の寝室。水結も傍にいる。
「……夢。か」
 私は布団から起き上がった。
 あの時の水結の涙のように、雪が輝いていた。

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