水夜岐と狼月
◆木野森神社◆
【狼月】「で、結局なんであいつを連れて来たんだ?」
生肉を豪快に食べながら訪ねてきた。
【水夜岐】「あいつ、誰か知ってる?」
【狼月】「いや、全くもって」
【水夜岐】「あいつは……私の幼馴染なんだよね。昔の」
【狼月】「へ?」
きょとんとした顔でこちらを見ている
【水夜岐】「私は、あいつの幼馴染」
【狼月】「いや、それは聞いたんだ。で、なんでそれを言わなかったんだ?」
【水夜岐】「……私のことを覚えている人はいないの」
【狼月】「ん?」
【水夜岐】「実は、私たちと会っている時は存在を覚えれるんだけど、それ以外だとその存在を忘れてしまう術みたいなものをかけられたんだよね」
【水夜岐】「それを私にかけられてから……もう忘れられてた」
【狼月】「……確かこの高原に来る前は外の世界の有名な貴族の家系だったよな。それと何か関係があるのか?」
【水夜岐】「そう。私が小さい頃、術はかけられていなかった。」
【水夜岐】「幼馴染あいつは私のことを覚えていたけれど、普通の家系だったから、両親が遊ぶことを許してもらえなかった。」
【水夜岐】「だけど、隠れて遊びに来てくれた。私が虐待を受けてきても、優しく慰めてくれた」
【狼月】「昔は……か」
【水夜岐】「そう。そうなの……」
【水夜岐】「私があいつと会っていることが両親にバレて、私は誰からも覚えられない術をかけられた」
【狼月】「それは……お姉さんも?」
【水夜岐】「そう……だったはず」
【狼月】「ん? 覚えてないのか?」
【水夜岐】「そうなの。"姉がいた"ってことは覚えてるけど、名前と姿がどうしても思い出せなくて……」
【狼月】「まあそうか……」
【水夜岐】「それと……」
【水夜岐】「この高原までどうやって来たのか覚えてない」
【狼月】「そういえば昔そんなことを言ってたな。一番最初にこの高原で出会ったとき」
【水夜岐】「そうだったっけ?」
【狼月】「おいおい忘れんなよ。あんだけ泣いてたのに」
【水夜岐】「あれ? そうだっけ?」
【狼月】「あの時は泣き虫だったなぁ」
【水夜岐】「そういえば狼ちゃんも泣いてた時もあったねぇ」
そのまま、私たちは昔話に華を咲かせていた。
日が暮れるまで、ずっと。
蒼風院香(GOOD END、????? END時)
◆静寂の森◆
私は、あいつを気絶させた。
さすがにしゃべりすぎた。私が水夜岐の姉だということを。
ミヤギと私は血のつながった家族だ。
虐待が当たり前の両親に育てられ、私は両腕を、ミヤギは右腕の自由を奪われた。
それだけならまだよかったが、あの両親に"とある術"をかけられた。
相手に記憶をさせない術だ。
これは蒼風院家に代々伝わる術だが、家主以外の人間にかけるのは禁忌とされていた……らしい。
だが、あの両親は私たちにその術をかけた。
両親以外の人と関わらせなくするために。
結局、その思惑は失敗に終わり私たちは両親やそれ以外の人たちから記憶されなくなったのだが。
私はそのことを利用して、噂があったこの高原へ逃げた。
その時、このままではミヤギはだれとも関われなくなるだろうと思い、名前を"雅岐"から"水夜岐"に変え、かかっている術を無くそうとした。
だが、この術はどうやっても完全に消すことができない。この術の大半を誰かに移すことしかできない。
だから、私はミヤギにかかっていた術を私の体に移した。
そんなこともあり、私は今もこの高原で暮らしている。誰にも記憶されないまま。
おそらくミヤギはもうすぐ来るだろう。
今のうちにこの記憶を消しておかねば……
蒼風院香(BAD END時)
◆静寂の森◆
私は、あいつを気絶させた。
まさか、あいつが記憶を持っていることとは考えられなかった。
おそらくミヤギはもうすぐ来るだろう。
今のうちにこの記憶を消しておかねば……
あれ?
あの時の記憶がない……?
おかしい。あいつのどこの記憶を探してもあの時の記憶が見つからない。
もしかして……あいつは嘘をついていた……のか?
まあいいか。
こいつを外の世界に連れて行けばいい。
こいつの部屋の場所はさっき知った。だからなんの問題もない。
この高原のみんなの中にあるこいつが来たときの記憶も、あとから消せばいいだろう。
私とミヤギの関係は、誰にも記憶させてはいけない。